ひき逃げ交通死亡事故捜査について

2014年01月05日 · 未分類

フェイスブックを見ていたら「<千葉・交通事故死>遺族が再捜査求めて地検に上申書」とうい見出しのニュースがシェアされておりました。無念にも亡くなられた被害者のご冥福をお祈りいたします。またご遺族のお気持ちを思うといたたまれなくなってしまいます。
さて、私はシェアされたニュースの内容でしか事件の内容を知ることはできませんので、具体的な捜査の経過についてはコメントはできません。ただ、ニュースの内容から、もし現場でこの事故を担当したのが私だったらという観点でひき逃げ交通事故捜査について述べたいと思います。

事件は2013年8月20日午前0時10分過ぎころ、千葉県八街市の国道路側帯を仕事仲間と二人で歩いていた男性が、タイ国籍の41歳女が運転するワゴンタイプの乗用車に後方から跳ねられるという交通事故が発生した。
(状況から道路左側路側帯を歩行中の被害者が、後方から進行してきた女が運転する乗用車に跳ね飛ばされたというイメージを今の私は思い浮かべております)

千葉県警所轄警察署の実況見分調書によれば、事故発生後、乗用車を運転していた女は75メートル先で一旦停止し、再び走り出して25メートル先で止まった。(一度停止した理由や停止していた時間などは情報として不明です)
女の呼気からは法定基準に0.15ミリグラムに満たない0.10ミリグラムのアルコールが検知された。この飲酒検知は実況見分を行った後で、事故発生から1時間30分経過した時点の数値である。

この事件について千葉地方検察庁は、女に対して自動車運転過失致死罪で起訴し、アルコール値や事故後の停車状況、走行距離などから道路交通法(ひき逃げ及び酒気帯び)違反を適用しなかったようである。
この起訴事実に対して遺族側代理人弁護士は「道交法には、直ちに停車して負傷者を救護しなければならないとあり女の運転行為はひき逃げにあたる。またアルコール数値も事故発生時は0.15ミリグラムを上回っていた可能性もあるとして千葉地方検察庁に対して再捜査を求める上申書を提出したというのが概要である。

この事件、確かに取り扱った交通事故捜査係警察官や捜査主任官の立場にある交通課長などは擬律判断に悩むところだと感じる。
所轄警察署では、そもそも本案件について、ひき逃げの事実を立件して千葉地検に事件送致しているのだろうか?あるいは所轄警察署の時点で既にひき逃げ事実の立件は見送って(断念した)自動車運転過失致死のみで送致したのだろうか?この点はとても関心がある。
あえて警察が送致しない事実を、検察官が再捜査して事件化することは期待できない。必要があれば警察に対して検察官が再捜査、補充捜査を指揮し追送致させるというのが私の経験である。

法令違反を取り締まる機関として第一次捜査権を有する警察に裁量権が委ねられている現状では、本案件のように法令の適用要件がどちらにもとれる曖昧な場合、必ずそこには捜査員(警察官・警察組織)の恣意が生じる。
捜査員の質や署風によって不自然な被疑者の供述を覆えそうと徹底して捜査を遂げる者もいれば、不自然と分かっていても被疑者の供述を鵜呑みにする者、不自然な被疑者の供述すら正論化しようとする者、供述の不自然さに気付かない者など様々である。
しかし捜査側の裁量権が制度化されていないため、全ては警察の擬律判断に任せられているから、それでも捜査は適正という評価になる。

さて、あくまでもニュース報道のみから与えられた情報を基にした場合であるが、本案件を仮に私ならどう捜査処理していただろうか?
ひき逃げ事実については、交通事故捜査専務員の意地にかけても道交法72条1項前段を適用しひき逃げ事件立件のための捜査を尽くし事件送致する方向にあったと思う。最終的には警察署長の判断ということになるが、仮に職務上の上司や捜査主任官がひき逃げ立件に消極的な意見を述べたとしても、それが立件を見送れという明確な指示命令でない限りはひき逃げ事件捜査を徹底して、処分は検察官の判断に任せることになったと思う。
飲酒検知については、正に事故現場の屋外で実況見分中、被疑者の指示説明を受けている最中にアルコール臭が感じられず、目の充血も無く顔の色もとりわけ異常が認められない場合で、実況見分が一旦終了してパトカー内や取調室内で被疑者と正対してようやくアルコール臭に気付いたというような状況であるなら、その時点で飲酒検知を行った結果が呼気0.10ミリグラムであったなら酒気帯び運転の立件は見送っていた。これを強引に酒気帯び状態に被疑者をしたて上げる捜査を行ったなら、それは警察官として絶対に許されないことである。悔しいが被疑者の順法精神の欠如や悪質性を証明する根拠として基準値以下ではあるが飲酒状態にあったことを捜査書類の中で明らかにするに留めるべきである。
本案件の飲酒検知が事故発生から1時間30分後となった理由が定かではないが、もし実況見分中に見分官(警察官)がアルコール臭に気付いていながら即時、飲酒検知を行わず実況見分を継続していたならそれは警察官の捜査ミスとして非難されて当然である。遺族の悔しさも怒りの矛先は当然警察官に向けられると思う。

私が交通事故事故捜査専務員の意地にかけても本件ひき逃げ事件を立件しようと考える根拠は、よく交通事故捜査で利用している参考書の中で道交法72条1項前段の解説文からである。
解説文の中で道交法72条1項の「直ちに」という意味について
救護義務は「直ちに」履行することを要する。直ちにとは、遅滞なく、すぐに、という意味で、要するに救護等の措置以外のことに時間を費やしてはならないということである。
事故を起こしたショックでしゅん巡していたとか・・・・・は要件を充たしていない
とあるからである。
最初の75メートル走行したことを消極的に受け止め「直ちに」の範疇に入れたとしても、いったん停止後、再出発するためにしゅん巡する時間、25メートル走行する運転行為は明らかに「直ちに」とは言えないと根拠付けるからである。
ひき逃げ捜査の要点では当然、事故前後の被疑者の挙動(いったん停止したとか、洗車場に行って車を洗ったとか)はしっかり捜査を遂げなければならない。

本案件のような運転行為がひき逃げに値しないとなると、法秩序は保たれないと思う。

あくまでもこの内容はニュース配信された情報のみに基づく、私的見解です。
上申書の効果が十分発揮されることを願っております。

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