「もらい事故」でも損害賠償責任を負う・福井地裁判決

2015年04月20日 · 未分類

4月18日は業務に追われ事務所泊りになった。4月19日早朝、事務所にファックスが入った。
YAHOOニュースである。
見出しに衝撃を受けた。
「もらい事故」でも賠償義務負う、福井地裁判決、無過失の証明ない。

ご自身に置き換えて次の事案で考えて欲しい。
貴方は友人の車を運転し、助手席にはその車の所有者を同乗させていた。
貴方は居眠り運転をしてしまい、センターラインをはみ出してしまい、たまた対向車線を直進して来た対向車と衝突する事故を起こした。

この事故によって、貴方が運転していた車の助手席に同乗していた友人(車の所有者)が死亡した。
対向車にとっては、まさに「もらい事故」と言える。

このような事故の時、対向車は死亡事故の賠償責任を負うでしょうか?
この事故で対向車の運転手は「一方的に衝突された事故で責任はない」と主張していました。

福井地裁は4月13日、「対向車の運転手が、どの時点でセンターラインを越えた車を発見できたか認定できず、過失があったと認められない」とした一方で
「仮に早い段階で相手の車の動向を発見していればクラクションを鳴らすなどでき、前方不注視の過失がなかったとは言えない」と、
過失が全くないとの証明がでてないとして、対向車に対し賠償責任を認めた。

ここで確認しておくが、この裁判はあくまでも損害賠償を争う民事裁判であり、対向車の運転手に刑事責任があるかを問う裁判ではない。
刑事事件では、必ず対向車側に予見可能性と結果の回避可能性があるかを判断することから始まる。
センターラインを超えて逆走して来る車を発見して、十分に衝突を回避できるような時間的、場所的要件があるのであれば、運転手はセンターラインを越えて来た車との衝突を
回避する義務がある。

もし相手の車が急にセンターラインを超えて来たような場合は、どうやっても衝突を回避することはできない。このような場合は対向車の運転手には結果の回避可能性がなく刑事事件として責任を科すことはできない。

ところが損害賠償事件(民事)では状況が異なる。
自動車損害賠償保障法(自賠責法)は、運転手が自動車の運行によって他人の生命、身体を害した時は、損賠賠償するよう定めている。
損害賠償の責任がない場合を「注意を怠らなかったこと、第三者の故意、過失、自動車の欠陥があったことを証明した」と定めている。

つまり、今回の福井地裁の判決では、対向車側が無過失と証明できなかったことから賠償責任を認めたものである。

福井地裁の判決に基づけた、普通に車を運転中、万が一対向車がセンターラインをはみ出して逆走して来る状況に陥った場合、
運転手としてはクラクションを鳴らしながら、できる限り最大限道路左側りに寄って、衝突を回避する行動をとったことを客観的に示していなければ
対向車は損害賠償責任を負うことになる。

私がよくお世話になっている多くの弁護士の先生方は、これまで口をそろえて
「民事で100対0になる場合として、センターラインはみ出しと信号無視の場合」と説明していた。

しかし福井地裁の判決が確定すると、今後は単純にセンターラインはみ出しは無過失ではないということになる。

それにしても、捜査経験者の意見として
当然、警察官の実況見分では対向車の運転手を立会人して実況見分を実施し、対向車には過失がないことを証明していると思う。

報道では今後控訴予定であるかなど述べられていない。
しかし、弁護士にはしっかり研究していただき、控訴審の場でしっかりと、誰もが納得できる判決が下されることを期待したい。

交通事故捜査のプロとして私ならどう対応するかなど考えさせられた生きた事件教材である。

亡くなられた方のご冥福を心からお祈り申し上げます。

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