2018年最初の判決

2018年01月21日 · 未分類

2018年1月19日、当社が関わった大きな事件について、名古屋地裁で判決が言い渡された。

事案の流れ

2012年7月、名古屋市南区で鈴木登喜夫さん69歳が路上に転倒したところを、乗用車に轢過されて死亡、犯人はそのまま現場から逃走した轢過死亡ひき逃げ事故が発生した。
犯人は一旦帰宅後、現場に戻ってきたことで逮捕された。

私の経験でも、犯人が現場に戻ってくることはたびたび経験したことである。
ひき逃げ事故の多くは、不安になり誰かに付き添われて警察署に出頭したり、現場に立ち戻り解決する事例が多い。

この事件の犯人は、逮捕後の取り調べにおいて「ゴミだと思った、人だとは思わなかった。」などと弁明し、鈴木登喜夫さんを轢過して逃走した容疑を否認した。
愛知県警から事件の引き継ぎを受けた(送致)名古屋地検は、ゴミだと主張する犯人の供述を覆す証拠がないとして、犯人を裁判にかけない不起訴処分とした。

ここから身内の命を奪われた上に、さらに司法との闘いで苦難の道が始まる。
名古屋地検は、遺族や検察審査会による不起訴不当の議決を受けて再捜査に乗り出すが、はやり犯人を有罪にするだけの証拠はないとして不起訴処分の決定をした。結局名古屋地検では3度不起訴処分であることを遺族に伝えた。
検察官とすれば、とりあえず起訴して裁判をしてみましょうという判断を下すことはできないので、不起訴を維持する結果になったと思う。
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当社はご遺族の依頼を受け現地調査から開始し、その後2015年5月、鈴木登喜夫さんの着衣を特殊写真撮影して肉眼では観察困難な痕跡を基に轢過形態を推定することから始めた。毎日、事務所にこもって地道な痕跡の解析作業だった。
この時、事故発生から既に3年が経過していた。

轢過の形態が推定された後、その着衣痕跡が現実的に実際に起こり得るか等、多くの協力者の力をお借りし実車走行実験を行うことをご遺族に提案した。

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轢過実験~単にダミーの上を通過する実験と考えてはいけない。
衝撃でエアバックが開いた時の危険性、車内の衝撃、実験目的が合理的に達成できる加速走行経路、証拠保全の撮影手法など様々な課題がある。
轢過実験を行うことを愛知県警担当者にご遺族が伝えると、警察官も危険性を指摘した。当然である。

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車底部からの突き上げでは、どの速度域で、車体のどの部位の衝撃を感知してエアバックが作動するのかわからない。
ドライバーは鈴木登喜夫さんの長男、徳仁さんが担当する。
ヘルメットのあご紐に緩みはないか、肌は露出していないか、何度もそれだけを確認し、あとは実験結果に恣意的余談が入らぬよう、「ただまっすぐにだけ走れ」、私はそれ以外伝えなかった。

後に裁判の中で私はこの実験方法、実験経過についての詳細を証言することになるが、証言台の後ろの傍聴席にいる徳仁さんの視線をずっと感じていた。

実験は成功し実験結果を鑑定書にまとめた。
当社の鑑定書を受け、愛知県警も同様の趣旨で実験を行い信用性を補強する結果になった。
当社は実験結果について名古屋地検から鑑定嘱託を受け、事故発生の機序まで踏み込み、被告が鈴木登喜夫さんを人と認識していた結論を導いた。

法廷では無罪を主張する被告弁護人3人の反対尋問を受けるが、徹底した調査と実験に基づいた私にはまったく反論になっていなかった。

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1月19日、名古屋地裁で判決公判が開かれ、否認していた被告人の供述の信用性は否定され、有罪判決が言い渡された。

この有罪判決を勝ち取ったのは、鑑定書ではない。
間違いなく、諦めなかったご遺族の思いと、3度の不起訴処分を撤回し異例の事故発生から3年6月を経過して本件を起訴し有罪を勝ち得ることができると信じた名古屋地検検察官の良心と正義感である。
ご遺族をずっと支援し続けた方々がいる。

当社は民間企業である。
民間企業が刑事事件に参加するということは、人の生命、身体、財産の処分を決定するための参考資料を作成することである。
だから組織のしがらみや偏見志向、恣意的志向に流されてはいけない、大切な職業倫理がある。

プロの職業人として、「あなたは誠実に仕事を行いましたか?」という質問に「はい」と相手を見て答えられる倫理観が私の、当社の柱である。

鈴木徳仁さん、ご遺族のみなさんお疲れさまでした。
鈴木登喜夫さんのご冥福を心からお祈り申し上げます。
合掌

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