横断歩行者歩行者妨害の違反は、信号機のない交差点でも成立する違反ですか?
最近、このような問合せの電話を2件受けました。当社では横断歩行者等妨害違反による死亡事故を年間数件取り扱っています。当社佐々木は、白バイ乗務や警察署での交通指導取締係で勤務した経歴を生かして事件事故お処理にあたっています。白バイ乗務は、単独で現場において違反処理をする必要があり、当時の交通警察官の大先輩方から横断歩行者等妨害違反取締要領の教養を受けた経験があります。
取締経験者として、何故、冒頭質問者のような疑問が生じるのか不思議に感じる部分がありますが、その訳をゆっくり聞いてみると納得できました。
下記広報用の警察資料をご覧ください。
これは、インターネットで「横断歩行者等妨害違反」などのワードを検索して表ヒットした警察関係の広報用資料のごく一部です。
上記資料は警察庁ホームページの抜粋で、下は熊本県警交通企画課だより第59号を抜粋したものです。(ほかにも同様の広報紙面は多数あります。)
多くの広報紙面(資料)で、横断歩行者等妨害違反は「信号機のない横断歩道」に限定しているように法令の趣旨を説明しています。
もちろん信号機のない横断歩道では歩行者が優先されるので間違いではありません。
しかし私が交通指導取締業務に従事して、横断歩行者等妨害違反の取締りを行うにあたり、大先輩から受けた指導は信号機のある横断歩道も立派に横断歩行者等妨害違反が成立し、私自身の取締り経験でも、ほぼ100%に近く横断歩行者等妨害違反の違反は、信号機のある横断歩道において実施していました。
信号機のある横断歩道での横断歩行者等妨害違反とは?それは「横断しようとする歩行者等」がキーワードになると思います。
以下、私が講演を行う際に用いる資料で説明します。
上記図の場合、歩行者Ⓐは歩道上で赤信号のため待機しています。歩行者Ⓐは横断歩道を横断する目的で待機しているのですが、対面する歩行者用信号機が赤色で待機している時には、法令が言う「横断しようとする歩行者等」に該当しません。横断歩行者等に該当しないのですから、青信号の自動車①は②の方向へ横断歩道上を通過していくことができ、横断歩行者等妨害違反にはなりません。(ある意味当然で、わかりやすいと思います。)
しかし自動車③が青信号で左折した時、交差点出口側の横断歩道では歩行者Ⓑが横断歩道を横断しようとしていた場合、自動車は④の位置で停止し歩行者Ⓑの横断を妨害してはいけません。歩行者Ⓑを無視して左折を継続した場合には自動車に横断歩行者等妨害違反が成立し、取締りの対象になります。
同様に自動車㋐が右折して横断歩道を通過しようとする時、右折出口側の横断歩道近くに歩行者等がいなければ、自動車は㋑方向へ一時停止することなく右折走行を継続することができます。
信号機のある横断歩道での横断歩行者等妨害違反については、上図のとおり歩行者等が横断しようとしている横断歩道のⒶの位置に歩行者がいる場合には、自動車は右左折で①から②へ向かう時、必ず横断歩行者を優先させなければなりません。他方、自動車㋐は横断しようとする歩行者等がいないので運転を継続して横断歩道上を通過しることができまう。
法令は「自動車は全ての横断歩道で停止しろ」とは言ってません。
以上はあくまでも信号機がある横断歩道で、法令上の横断歩行者等妨害違反の対象車なる、自動車と歩行者の位置関係です。あくまでも法令上です。
理想的には法令上の自動車運転が望まれるのですが、実は現実的でない場合も多々あります。法令上の横断歩行者等妨害違反の条文を全ての場合に適用することが現実的ではない理由こそが、自動車運転手に横断歩行者等妨害違反が浸透されにくい側面になっていると考えられます。
全国のどこの都市部にでもある、比較的大きい横断歩道がある信号交差点を想定し、パターン毎に分類して説明します。
実際に自動車を運転している方は自分自身のこととして理解しやすいと思います。
上の図では、青信号を左折しようとした自動車①は、Ⓐ点から歩行者が横断しようとしているのを認めた場合、法令上は停止しなければなりません。しかし交差点が大きい場合などでは、Ⓐ点の歩行者が自動車①の前に到達するには長い時間を要し、歩行者Ⓐが自動車の前に到達する前に自動車①は安全に(歩行者Ⓐに具体的な危険を及ぼすことなく)横断歩道上を左折通過することができます。自動車①は一旦停止した上で、歩行者Ⓐの通行を妨げない位置関係にある場合には、横断しようとする歩道等がいるからといって直ちに横断歩行者等妨害違反が成立するとは言えない場合があります。
上図の場合、自動車①は左折する時にⒶの歩行者を認め①地点で停止し、歩行者Ⓐが自動車の前を通過してⒷ地点まで行ったのを確認し、歩行者Ⓑの背中側を通過していきました。この場合にも現に横断歩道を歩行している歩行者等がいるのだから、自動車は法令上の横断歩行者等妨害違反の対象車両になります。法令違反の対象車両になるからと言って自動車①は、歩行者が完全に横断歩道から歩道上に渡り切るまで停止していなければいけないのかと言えば、やはり現実的ではありません。
上図の場合、自動車①は左折する時に歩行者Ⓐを認め一時停止しました。歩行者は自動車の前を通過してⒷ点まで到達したので、自動車①は歩行者Ⓑが反対側の歩道まで到達する前(横断し終える前)に背中側を通過して左折しました。自動車を運転する人は頻繁に経験する運転方法だと思います。注意深く見ているとパトカーもこのような歩行者の背面側通過方法を取っているのを見かける時があると思います。
横断歩行者等妨害違反の条文には、「歩行者の背面側の通過は除外する」という規定はありませんので、横断歩道を現に歩いている歩行者等がいるのだから条文に従えば横断歩行者等妨害違反ということになります。しかし自動車①は歩行者が横断歩道を渡り切って歩道に到達するのを確認してからでなければ左折を再開できないとなればはやり現実的ではありません。
当然、歩行者の正面側であっても、背面側であっても、歩行者が具体的に危険を感じてその場に立ち止まるような位置関係であれば横断歩行者等妨害違反が成立します。
歩行者が受ける具体的な危険性とは、歩行者の年齢や身体能力等によって変化し一律に数値定量化することができない要素になっており、警察も一律に取締りが進まない理由でもあります。
信号機のある横断歩道でも横断歩行者等妨害違反が成立します。警察庁では信号機のない横断歩道での取り締まりを強化する通達を出しておりますが、信号機のある横断歩道でも重大事故は毎日発生しています。
信号機のない横断歩道での停止率を全国的な集計で順位をつけるよりも、それはそれとして、横断歩道では歩行者に具体的危険が生じない施策を推し進めることが本論だと思います。