人の記憶がいかに不確実であるから、これまでも多くの科学者、心理学者等によって指摘されています。専門家は人間の記憶に関して研究し理論的な証明をしており疑う余地もなく人間の記憶は不確実です。それは研究結果を示されなくても、私たちは往々にして人間の記憶の不確実さを日常経験済みです。それだけでも交通事故当事者が警察官の質問に対して、瞬時に起こった事故の経過を0.1m単位で指示説明することは困難な作業であることがわかります。写真はつい先日、所用で千葉県に行った帰り常磐自動車道で撮影したものですが、この写真を頼りに、またこの場所へ行こうとしても、0.1m単位で辿り着くことはできません。それを求められても答えようがありません。「まぁ、だいたいこのあたりだったかな」という程度の認識で答えことになります。それほど不確かな記憶で回答してるのだから、その地点が後々、事故の原因地点として重要な地点になるなどわかっているなら、おそらく「はっきりした記憶はありません。何度聞かれてもわかりません。」と回答すると思います。それは警察官も十分承知の上で質問しています。だから、警察官としては事故形態に不合理な地点とならないように、「だいたい、このあたりでいいですか?」を助け舟をだし、実況見分調書には指示説明地点として計測した結果を0.1m単位で記載している実情ではないかと思います。それだけではありません。現場で計測した関係地点距離を正確に図面に落として図化すると、そのままでは相手の車や人と衝突する前に通り過ぎて事故が発生しない、という状況も多々あることです。そうなると再見分という作業になるのですが、再見分したところで記憶が正確によみがえるものではなく、結局は机の上で指示説明に基づく関係距離の調整を強いられる結果となります。まさか衝突地点を移動するわけにはいきませんので、衝突地点より以前の地点を微調整するようになると思います。
交通事故調査をする上ではどうしても実況見分調書を参考にしないと事故の概要がわかりませんので、私は隅々まで目を通すのですが、それでも衝突地点以前の指示説明は本当に参考程度にしております。衝突地点から停止転倒地点までに事故の真相を見出すことが最初の目的です。その間の痕跡は指示説明でもなく、机上で微調整されたものでもないからです。
そして警察官が行う実況見分調書での指示説明の目的は、自動車運転過失致死傷罪を立証するための犯罪捜査活動であることを忘れてはいけないと思います。開示された実況見分調書を見て「あれっ?」と不自然に感じた時にはすでに刑事事件は終結している時です。このような性格の交通事故現場の実況見分調書ですから刑事訴訟法上の問題はあるのですが、しかし公の場で発生した交通時の実況見分なのですから、当事者双方にいち早い開示が望まれると思います。
交通事故当事者の指示説明、その裏にあるものとは?
2012年04月03日 · 未分類
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