交通事故が発生すると様々な形で捜査が始まります。警察官が交通事故が起きたことを知る手段はいくつかありますが代表的なものは110番通報の入電に基づいて通信指令室から事故現場を管轄する警察署に無線指令が発せられる場合です。無線指令は警察署交通課だけではなく、交番・駐在所の勤務員、パトカー乗務員なども一斉に傍受することができ、いち早く多くの警察官に事件事故の発生を知らせることができるメリットがあります。ですから警察署に対する無線指令でも一番最初に事件事故現場に臨場するのは交番の警察官かもしれないし、パトカー乗務中の警察官かもしれません。とにかく最初に現場に到着した警察官が現場保存などの基本的なことを行い、順次駆けつける警察官が応援する形になります。
ところで物損事故でも人身事故でも一度経験した方なら経験していると思いますが、警察官から運転免許証、車検証、自動車損害賠償責任保険証明書の提出を求められたと思います。
この3点セットは自動車と原付バイクを運転中に交通事故の当事者になったら必ず提出を求められるものです。
歩行者の場合は、運転免許証の代わりに身元を明らかにするため、住所・氏名・生年月日・連絡先・職業を質問されます。
3点セットを受け取った警察官は必要事項をどんどん記録していきます。
写真は今、私が多くの交通事故調査依頼から書類が郵送されてくると、警察官時代を見習って書き込みしているメモです。警察官当時はこのようなメモ用紙は「臨場メモ」と呼んでいました。
このメモさえしっかり作成していれば、調査報告書や鑑定書、意見書を書くときにいちいちたくさんの書類を確認しなくても最低限必要なことがわかるようになっているのです。私が独立したての頃は、こんなメモ紙を作成するのは面倒だと思って作成しておりませんでした。でも、作成を省くと、氏名や住所、車の大きさなど最も基本的なことを誤記してしまうのです。
交通事故現場に最初に臨場した警察官もこのメモと同じようなものを利用して運転手から預かった運転免許証、車検証、自動車損害賠償責任保険証明書の内容を書き写して記録しています。
電話番号や職業、勤務先などは3点セットには書かれていないので、最後に運転手から直接聞き取りをします。
このような点では、言ってみれば事故現場でにおける「交通事故捜査の出発点」と言えます。メモ用紙ですから警察署や都道府県ごとに若干の違いはありますが、最低限必要な項目を網羅するとだいたいこんなものだと思います。
メモ用紙の中には第1当事者と第2当事者とあります。もちろん車が3台絡んだ事故なら第3当事者とメモ用紙はどんどん増えていきます。
第1当事者と第2当事者とは何が違うのか?事故を起こしたことが無い運転手の方でも、なんとなく風邪の噂程度で耳いしたことがあるかもしれません。
第1当事者とは交通事故の主たる原因を作った方の車で、交通事故証明書を受け取った時には甲者側(上段)に記載されてる運転手です。
現在私が行っている交通事故調査の過程では第1当事者も第2当事者も全く意味がありません。交通事故の調査、鑑定は主たる原因車を明らかにする作業ではないからです。
しかし、現場に臨場した警察官が作成する場合には後々まで相当大きな意味合いをもつこともあります。
特に物損事故の場合は、第1当事者と第2当事者を取り違えて記載してしまうと、交通事故証明祖を取った時にも
甲者、乙者が取り違えた状態で発給されてしまう恐れがあるのです。私の記憶では昨年1年間で3件ほど交通事故証明書が取り違えられて発給になっているという相談がありました。
先ほど触れたように、この3点セットの提出を受けて通称「臨場メモ」に書き写していくのは、比較的早い段階で現場に到着した交番所の警察官である場合が多く、
当然、その段階では事故の原因や概要もまだ詳しいことが定かではない状態でメモとして記録化し、現場の交通事故処理が終わるころに、実況見分などをして交通事故を担当する警察官に引き継ぐのです。
警察官同士のコミュニケーションがうまくとれていないとヒューマンエラーとして誤りが発生する一つの原因になっています。
先日テレビを見ていたら「被害者が加害者にされた」というショッキングな話題が放映されていました。
この番組での趣旨は、第1当事者と第2当事者が取り違えて記録されていたというものではありません。しかし、交通事故ではそのようなことも起こる原因が割と単純なヒューマンエラーの中に隠されていることも事実であることを忘れないで欲しいと思います。
自分が交通事故当事者になったら、あるいは友人知人、家族が不幸にも当事者になってしまったら
作成されて手元に残される書類は、できるだけ多くの目で、しっかり確認しておくべきだと思います。
正しく作成されていて当然な書類が間違っていると、時間が経過するとその修正に要する労力は大きくなります。
このようなことを再認識したから、私も現在は初心にかえって交通事故調査の始まりには必ず必要最低限のことを県警在職中に学んだ方法を受け継いでいます。