交通事故には人の死傷がない物件(物損)交通事故と人の死傷が伴う人身交通事故に大別されます。物件交通事故は物の損壊のみですから民事上の損害賠償で基本的には警察は運転手を処罰するための具体的捜査は行いません。
人身交通事故は自動車運転過失致死傷罪として刑法で定められた犯罪ですから、警察が被疑者を処罰するために必要な捜査をおこないます。
人身交通事故の処理手続きは死亡事故、重症事故、軽傷事故の怪我の程度(一般的には診断書の日数)の他事故に付随する法令違反の内容によって異なります。
私の経験を元にすれば、取り扱う人身交通事故の
約70%は最も簡単な処理手続きである、簡約特例書式という手続きです。
慣れた交通事故係の警察官であれば早ければ事故発生当日に事故処理が完結します。普通は2〜3日で完結します。処理が早く終わるか、遅くなるかの違いは警察官の能力よりも、むしろ被害者の診断書提出が遅れたとか、被疑者、被害者の取り調べの時間的都合がつかないなど、事故当事者側の都合による方が圧倒的に多いと思います。
簡約特例書式で処理する事故は被疑者供述調書であっても、穴埋め、虫食いの項目を一言にまとめて埋め合わせたり、レ点を付ければ完了するのです。
後は最後に「事故の相手方は今回の事故で初めて会った人です。」と結べば誰でも100点の被疑者取調べによる、被疑者供述調書が完成するのです。
基本的には簡約特例書式で処理した交通事故は、検察官に送致しますが不起訴処分となります。もともと人を処罰するための書類ではないのです。
よく、そのために交通事故係の警察官はやる気を起こさないと理由付けする意見を耳にしますが、全く誤った評論です。
警察官にしてみれば処理手続きが簡約化できるならそれでいいのです。処罰されるかどうかは単に制度の違いで一般交通事故被疑者を特段者罰することを期待していません。
この簡約特例書式の大きな弊害は、若手事故係警察官が死亡事故、重症事故についても無意識に事故処理なんて簡単なものだと、捜査の重要性を忘れてしまうことだと感じます。
死亡事故、重症事故の被疑者取調べと被疑者供述調書を簡約特例書式の虫食い穴埋め程度に進めたら、処罰することが難しくなります。なぜなら、処罰を求めない書式の概念でいざ処罰しようとしても無理なのです。
死亡事故、重症事故、ひき逃げ事故などの被害者遺族が、よく初動捜査が杜撰であると意見述べていますが、根本は緻密な捜査をしなくても交通事故の約70%は処理可能な現実に警察官の捜査に対する認識が麻痺してるからだと思います。
簡約特例書式制度が出た時、素晴らしく効率的な制度だと感じましたが誰も弊害の危険性を訴える人はいませんでした。