12月20日午前9時25分ころ、東京都葛飾区新小岩の都道でワンボックス車が右折禁止場所の交差点を右折したのを警視庁葛飾署員が発見、パトカーで追跡した。
ワンボックス車は約450メートル先の交差点に赤色信号無視で進入し、横断歩道を渡っていた千葉県市原市在住の21歳女子大生を跳ねた。女子大生は病院で死亡が確認された。
ワンボックス車を運転していた22歳の男は基準値を超えるアルコールが検出され、葛飾署は危険運転致死容疑を視野に捜査を進める。
本当に痛ましい死亡事故である。
女子大生とそのご遺族の立場になると、この事故の原因は右折禁止違反をしたワンボックス車の運転手と追跡行為に移行した警察官の行為である。
女子大生は全く、何の非もない純粋な被害者で、これほど理不尽なことはない。
右折禁止違反は道路交通法違反で、その段階では被害者はいない。
飲酒運転も無免許運転も、信号無視違反も一時不停止違反も、シートベルト不装着違反も・・・交通違反捜査とは、現実的な被害者が発生する前の、事故の予防的事件捜査ということを広く理解していなければならない。
どんなに悪質危険違反を犯した違反者を検挙するためという目的があったとしても、他人の命を犠牲にしていいという理屈は絶対にない。例外規定など設ける必要もない。
女子大生の21歳で奪われた命に対して「本当にお気の毒だったね、運が悪かったのよ」という風潮はいささかも容認する社会であってはならない。
唯一の交通取締り機関の責任で、右折禁止違反の危険性を取り締まる法益と追跡行為によって生じる第三者を巻き込む社会的危険性を判断すべきである。
私も覆面パトカーや白黒パトカーで交通法令違反の取締りに従事した。
取締り警察官として、違反者の後ろ姿が見えているうちは追いかけたい、追跡して現行犯で検挙したいという気持ちを何度も経験した。
しかし、たまたま私の運転するパトカーに同乗している相勤者の先輩が、素晴らしく誇れる先輩だった。
先輩は違反日時、場所、道路環境などを見て「行け、行け、一気に加速して後ろに付け」と指示する時と、「やめろ、放尾(追跡をやめること)しろ」と指示する時を明確に区別していた。
追跡を止めても中には安全な事後捜査によって違反を検挙したことも多数あるし、検挙に結びつかなかった事件も多数ある。
少なくても第三者の生命、身体、財産に危害を加えた交通事件捜査ということは一件も発生しなかった。
ちなみに、追跡行為は違反者に追いついたとしても安全に違反車両を停止させる手段はない。追跡中の警察官としては執拗に追跡することによって逃走意欲を無くすことを期待するか、自損事故によって停止せざるを得ない状態を待つしかない。
東京葛飾区の右折禁止違反は仮に追跡を止め、事後捜査によって検挙することはできたとしても確かに飲酒運転の検挙は無理だったかもしれない。
それを考えれば、いわゆる「逃げ得」の一種になる。
しかし、飲酒運転の検挙を逃したとしても、被疑者が飲酒運転検挙を免れ得をしたとしても、第三者の具体的被害者は発生していないのだからそれでいい。
警察官として交通法令違反の違反車両を取り逃したからといって処分を受けることなどない。
違反現認時にできる範囲で採証(証拠を集めておくこと)していれば、追跡行為をしなくても決して警察官の職務怠慢ではない。
交通法令違反を取り逃がしてしまったことによる社会的損失と奪われた21歳の命の損失は到底比較にならないほど命の重みは大きい。
土曜日の午前9時25分、東京都内で追跡が安全だと判断される道路環境などないはずである。
容易に防止することができた本当に痛ましい理不尽な交通死亡事故で残念である。