3月23日午前1時45分ころ、東京都世田谷区用賀の国道246号でパトカーに追跡されていた乗用車が、赤信号を無視して交差点に進入しタクシーなどに衝突する事故が発生した。
この事故でタクシーの運転手が死亡する最悪の結末となってしまった。
(写真はNHKオンラインニュース)
3月25日、TBSテレビ「ひるおび」で当社佐々木が交通事故鑑定ラプター代表の中島先生(写真右)と事件の解説をした。
番組では飲酒逃走の結果、全くの第三者、何の落ち度もないタクシー運転手を死亡させる結果を生んだ乗用車の運転手の身勝手さや悪質さを伝えるにとどまった。スタジオの全員が乗用車の運転手に対する怒りを感じたと思う。
このコラムでは元県警交通取締係の経歴を有する佐々木が、別の視点から事件を述べたいと思う。
ポイントはパトカーの追跡中に事故が発生したこと前提にしていなければならないである。
パトカー追跡中の事故では、その追跡行為や追跡方法に問題が無かったのかが県警内部では評価が行われる。
今回の事件では追跡途中の映像もあり、それから判断すればパトカーは決して無理な追跡をしているわけではない。
しかし最初の交通違反(今回は尾灯等整備不良)を取締まるために、例外なく、どんな理由があっても第三者、一般市民を事件に巻き込んではいけないということである。
第三者を巻き込んだ以上は追跡行為が合法の範囲であっても、合理性、妥当性を欠いた捜査活動である。
捜査とは常に合法、合理、妥当の三要素を満たす方法を選択しなければならない。
公道上で車両を停止させようとする時、その停止合図に従わず逃走が始まった場合、すぐに一般市民を巻き込む危険性が生じることを前提にしていなければならない。
警察官として逃走する被疑車両を追跡するのは当然であるから、適正な追跡行為だから逃走中に起きた事故は逃走犯人の責任で一般市民を巻き込んでもやむを得ないという論理は危険である。
逃走中の車両を追跡行為によって停止させる具体的方法は存在しない。
外国のように長いカーチェイスの果てにパトカーを体当たりさせて逃走車を停止させる捜査が奨励されていない日本では、追跡によって得ようとする捜査の効果はほとんどに場合には期待できないのが実状である。
多くの一般市民が往来している場所で、誰も危険に合わせることなく、絶対安全に違反車両を停止させることが交通取締り警察官に課せられた使命である。
実は大変難しいことで、違反を見つけることと違反を取締まることは全く別次元の問題である。
秘匿追尾、放尾事後捜査、連携組織捜査、停止確認後の職質検挙など、ていししゅサイレン吹鳴による約1.5kmにわたる現行性の追跡が唯一の方法ではない。
法令違反として尾灯等整備不良があったとしても、その違反が直ちに周囲に具体的危険性を与える
ものではない。
その小さな違反を取り締まろうとする背後には、常に重大な危険が待ち構えていることを前提にした捜査手法の選択が必要である。