捜査書類は有印公文書で、事件事故を形作る重要な書面です。原則は捜査した都度、捜査した内容や捜査結果を正確に上位階級の者に伝えると同時に、検察官や裁判官に対しても客観的事実を伝える役目を果たしております。そこに虚偽の内容を記載すれば上位階級者などの正確な判断を誤らせ、虚偽事実が事件の真相として貫かれしまうのです。一般的な捜査報告書の性質は事実ありのままに、捜査員の主観を排除して客観的事実を記載するものですが、総括捜査報告書などのように、事件事故の総括(まとめ)を記載する捜査報告書は、事件担当捜査官がこれまでの捜査結果を基にして事件の経過や概要を記載するため、捜査官の主観的意見が多く入り込みがちになります。もちろん、主観的意見が多様されている捜査報告書などは上位階級者が決裁する段階で不適切と判断するのが本来の決裁制度というものでしょうが、「組織防衛」と「保身」の概念から大きく逸脱していない報告書類はスムーズに署長を経由して検察庁へと送付されてしまうのです。この「組織防衛」と「保身」の概念を象徴する報道が本年4月26日に報道されています。秋田県警の巡査長が「任意提出書」とういう犯罪被害者からの署名押印等がある司法書類を誤って破棄したところ、巡査長自ら、被害者に無断で住所、氏名を書き、自分の指で代印して任意提出書を作り直していた、という不祥事です。これは公文書に他人の氏名を記載し、自らの指で代印するわけですから許されるはずがありません。ところが秋田県警監察課は「巡査長に書類を行使する目的はなく、偽造にあたらない」と判断し本部長訓戒処分という警察内部処分にとどめ事件の終息をはかったという報道です。行使の目的がなければ公文書偽造は成立しない、という犯罪構成要件に照らしての処分でしょうが、存在しなければいけない任意提出書を破棄して、その再作成を自らしたのですから、どのような聞き取りで行使の目的を否定したのか不審点が残ります。しかし、厳しい取調べと法解釈によって巡査長を公文書偽造で事件化することは県警にとっては大きな打撃で、巡査長の監督・管理責任の追及なども考えれば組織防衛と各級幹部の保身のため最善の策を講じたものと思います。大切な書類を破棄してしまい追い詰められた巡査長の気持ちはわかりますが、他人の住所、氏名を代筆代印する行為を選択した段階で国民の権利義務を直接制限することが可能な捜査機関に従事する公務員としては資質を疑うべきだと思います。そして、このような行為に走った巡査長のみならず、「間違いって破棄してしまいましたので、もう一度被害者のところへ伺って任意提出書を再作成してもらってきます」と進言できない組織風土が警察不祥事の核ではないかと思います。
当社に送付していただいている事件捜査書類を精査中ですが、「よくもまぁ、見境もなく書いたものだ」と思う内容な多く見受けられたのでこのようなブログとなりました。
第一次捜査権を持つ県警にあっては、組織 VS 被疑者の構図で勝ち負けを競うことを目的とせず、とことん真実真相を見出す機関であって欲しいと願います。
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