悪質な自動車運転で他人を死傷させた場合の罰則を強化する
「自動車運転死傷行為処罰法」が11月20日に参議院で可決して成立した。
この法案は全国の多くの被害者遺族の努力があってされたことについて敬意を表したいと思う。
しかし、私は刑罰の厳罰化が直接交通事故防止に寄与しないことを訴え続けたいと思う。
確かに、飲酒運転や無免許運転という違反行為の抑止にある程度の効果は期待したいが、交通事故捜査に従事していた経験で話せば
違反行為と交通事故の原因は全く別だからである。
ところで、この交通事故厳罰化の法案が成立しても、肝心の警察交通捜査がずさんで
捜査官の能力が追い付かなければ、全く役に立たない実例が報道されている。
警視庁は11月21日、捜査書類の改ざんし、「ひき逃げ事故」や「無免許運転」をした男の容疑を見逃したとして
虚偽有印公文書作成・同行使及び犯人隠避の疑いで亀有警察署交通課の巡査部長を書類送検し、その上で停職1か月の懲戒処分にした。
巡査部長は11月22日付けで依願退職した。
警視庁によると、巡査部長は東京都江東区内で起きた停車中のタクシーに乗用車が追突した人身交通事故の捜査を担当した。
交通事故直後に乗用車の運転手は事故現場から逃走し、ひき逃げ事故となった。
その後、乗用車の20台の運転手が警察署に出頭し、無免許運転だったことも判明したが、運転手の供述調書には
道路交通法違反(ひき逃げ)の被疑事実を記載せず、さらに運転免許の有効期限を改ざんして道路交通法違反(無免許運転)の被疑事実も隠蔽。
結局、無免許ひき逃げの男について自動車運転過失傷害容疑のみで東京地検に書類送検した。
巡査部長はこのような不正、ずさんな交通捜査を行った理由について
「捜査手続きに自信がなかった」と自認している。
警視庁交通課に勤務する巡査部長の警察官でも無免許・ひき逃げ事故の捜査手続きに自信が持てないのである。
全ての交通警察官がこのような捜査に弱いわけではない。
しかし、たとえ交通事故処理は基本的に一人の警察官が事故臨場から送致まで全てを取り扱うといったところで
警部補、警部、警視といった各級幹部による組織捜査が行われることに違いがない。
つまり、現場の警察官の不手際は各級幹部の組織捜査においても是正されず
ずさんな虚偽捜査が行われてしますのである。
このような体質、未熟な警察捜査が現に行われている限り
厳罰化法案は何の役にも立たない。
知人のジャーナリストである柳原三佳が11月25日発売の週刊朝日12月6日増大号で同様の懸念を抱く
愛知県名古屋市の2つのひき逃げ遺族の不安を指摘している。
まさにそのとおりである。
その中の1件は、警視庁の案件と同じで事故発生後に現場から逃走、1時間30分後に現場に舞い戻り
ひき逃げ事故として検挙された。
しかし、名古屋地検ではひぎ逃げ事実を処分保留にしている。
処分保留にしている大きな理由の一つに、どうしても納得できない杜撰、恣意的な捜査が行われている。
遺族代理人弁護士も起訴が当然の立場で訴え、また名古屋第一検察審査会も不起訴不当の議決を下している。
このひき逃げ死亡事故は私も検証を開始するため先日名古屋を訪れた。
やれることをやってみようと思う。
捜査態勢の在り方を変えなければ、厳罰化された法令適用後も同じ過ちは繰り返される。